人間・無生物・2次元
褒められたら嬉しいですよね。
褒められると学習効率が上がるという研究もあるようですから,なおさらです。
https://www.nips.ac.jp/release/2012/11/post_223.html
さらに言えば,同じように褒められるとしても1人より2人,2人より3人に褒められた方が調子が出そうな気がします。
では,人間でないものから褒められる場合はどうでしょうか?
例えばロボットに褒められる場合を考えてみます。それがドラえもんのような親しみやすい存在であれば,人間とあまり変わらないかもしれません。しかし,Pepperだったらどうでしょう。人間味という部分ではPepperはドラえもんには及びませんから,受ける印象も変わってきそうです。
さらに,二次元の映像に褒められるという場合も考えられます。映像データに我々のような意識や意図があるとは考えにくいので,褒められても何も感じないかもしれません。しかし,マンガやアニメのキャラクターに心動かされることがあるように,何かしらを感じることがあってもいいようにも思えます。
つまり,人間でないものから褒められると我々がどう反応するかは決して自明ではないのです。
今回扱うのは,そんな疑問にフォーカスした研究です。ロボットや二次元映像の場合でも,何人(何体?)から褒められるかが,受け手の学習に影響を与えることを実験で示しています。
論文紹介
Shiomi, M., Okumura, S., Kimoto, M., Iio, T., & Shimohara, K. (2020). Two is better than one: Social rewards from two agents enhance offline improvements in motor skills more than single agent. PloS one, 15(11), e0240622.
問題の所在
リサーチクエスチョンは以下の3つです。
- ロボットに褒められると,運動技能の習得が促進されるか?
- 褒めるロボットの数は,影響を与えるか?
- ロボットが実際にあるのと,画面に表示されるのとで違いはあるか?
手続き
実験参加者は96名の日本人学生です。実験は2日間にわたって行われました。
【1日目】
・参加者は,ディスプレイに表示された数字のキーをなるべく早くタップする課題を,12回行います。
・人型ロボットが説明と各試行へのコメントをします。内容は条件によって異なります。
【2日目】
・同じタスクを5回行います。
・ロボットはニュートラルなコメントのみをします。
※ロボットは,ヴィストン株式会社によるコミュニケーションロボットSota(https://www.vstone.co.jp/products/sota/spec.html)を使用しています。
実験条件は,3(1日目に褒めてくれるロボットの数)× 2(ロボットに実体があるか)の6条件です。条件の詳細は下記のようになっています。
【1日目に褒めてくれるロボットの数】
褒めない条件 :1体のロボットが,参加者の成績の報告のみをする。
1体褒める条件 :1体のロボットが成績に応じて褒める。
2体褒める条件 :2体のロボットが成績に応じて褒める。
【ロボットに実体があるか】
実体あり条件 :小型の人型ロボットがコメント。
実体なし条件 :ディスプレイに映ったロボットがコメント。
結果・考察
・褒めてくれるロボットの数が多いほど,1日目→2日目の成績向上が大きい傾向がありました(褒めない条件 < 1体褒める条件 < 2体褒める条件)。
・実体あり条件と実体なし条件では,統計的な差は認められませんでした。
→ロボットに褒められると,運動課題の学習効果が促進されるようです。
また,その効果は褒めるロボットの数が増えるほど大きくなります。
実体の有無の影響は認められませんでした。
たしかにコスパは良いけれど
褒めてくれるロボットを増やすと学習効果が上がるというこちらの研究は,教育や福祉の現場で役立つということで注目を浴びました。
特に2次元のロボットやキャラクターの数を増やすのは,人を増やすより全然楽にできてしまうからです。
そのこと自体は至極もっともだと思いつつ,これよりももっと数が増えたら(5体や10体?)話は変わってくるかもしれないなとも思っています。
たしかにロボットを増やすのは楽かもしれませんが,それは褒められる方だって知っていることです。2体程度ではあまり意識しなくても,10体だったらさすがに「これは同じようなデータをコピーしたものだな」と勘ぐってしまうのではないでしょうか。
つまり,たくさんのロボットの向こう側に,たった1人の人間を見てしまうのです。もしそうなったら,数を増やす効果は消えてしまうでしょう。
実際にそうなるかは調べてみないとわかりません。他にも,どんな風に次の実験が展開できそうか,考えてみると面白いかなと思います。
もし実際にやるとなっても,(特にディスプレイであれば)ロボットの数を増やすのは結構簡単にできそうですね。
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