考えちゃダメだ考えちゃダメだ…シロクマのリバウンド効果part2

社会心理

抑え込むとより強くなる

前回紹介した,ある事柄に関する思考を抑制しようとすると,かえって思いつきやすくなってしまう,というパラドキシカルな現象「シロクマ効果」実験の続きです。

考えちゃダメだ考えちゃダメだ…シロクマのリバウンド効果 part1
「考えないようにしよう」 嫌なことがあったり,我慢しなければいけないことがあったりするとき,こう考...

頭に浮かんでしまうだけではなくて,それが強まってしまう,というのがポイントでした。

抑え込むとより強くなる,というのはかなり皮肉っぽい現象ですね。弱体化させようと頑張るほど強くなるなんて,かなりチートです。どう倒したらいいかわからないボスキャラのような風格があります。

こういった「あるある現象」は,事実の検証だけでなく,それがどのような過程で起こっているか,すなわち理論の構築が重要です。同じ現象を扱っていても,立脚している理論≒モデルが異なれば,論文の内容は変わってきます。そのあたりに着目して,研究を追いかけていくのも楽しいですね!

論文紹介

Wegner, Daniel M.,Schneider, David J.,Carter, Samuel R.,White, Teri L. (1987). Paradoxical Effects of Thought Suppression. Journal of Personality and Social Psychology, Vol 53(1), 5-13.

問題の所在

ある事柄に関する思考を抑制しようとすると,かえって思いつきやすくなってしまう,という逆説的な現象が生じる傾向があります。それについて,実験1で「シロクマ」という中性的な単語を使って検証を行いました。
リバウンド効果については,調査時点での先行研究の理論では説明できない部分もあったため,実験2を通じて足りない部分を詰めていきます。

この理論は,後続の研究も含めて「皮肉過程理論」という名前でまとめられます。考えないようにするという行為を達成するためには,自分の思考の中にその単語が出てきていないかを,都度自分でチェックする必要が生じます。そのために,抑制すべき思考を常に意識することになり,結果的に強く思考してしまうのですね。

だとしたら,本当の意味で考えないようにするには,抑制するという行為を意識しない…みたいな方向になりますかね。

まさに!実験2では,「集中的な気晴らし(≒気を紛らわせる)」条件を追加し,抑制ターゲットと関連しない別の単語に意識を向けさせたらどうなるか?という点を検討しています。

手続き

参加者は,大学生44名(男性16名,女性38名:うち5名はデータ不備で分析からは除外)でした。彼らは,

  1. 初期抑制条件(initial suppression condition)
  2. 初期表現条件 (initial expression condition)
  3. 紛らわせ条件(focused distraction condition)

のいずれかに振り分けられました。

参加者がすることは,実験1と同じく「5分間,思い浮かんだことを言語化してテープレコーダーに吹き込む」ことと,「『白熊』が思い浮かんだり,『白熊』と言ってしまったりしたら,ベルを鳴らす」ことです。
抑制フェーズの前には「白熊のことを考えないように」,表現フェーズの前には「白熊のことを考えるように」という教示を受けていました。

 

ただし,③紛らわせ条件のみ,抑制フェーズの際に「白熊のことを考えてしまったら,『赤いフォルクスワーゲン』について考えてください」と追加の教示がありました。その際も,同様にベルを鳴らします。

結果・考察

どの条件でも,抑制フェーズでの参加者は,5分間に平均6.15回は白熊について考えていました。

実験1と変わらず,「完全な抑制」は困難なことが示されました。

また,抑制フェーズで白熊について考える回数の差は,

②表現条件<①抑制条件となり,最初に抑制をする参加者の方が多く白熊について考えていましたさらに,③紛らわせ条件と①抑制条件の間にも有意差は認められませんでした。

ワーゲンのことを考えて,言及しつつも,抑制フェーズで白熊にフォーカスする数は減らなかったんですね!

また,実験2では,ターゲット(白熊)についての思考の長さも測定しています。

その結果,表現フェーズにおいて ①抑制条件>②表現条件≒③紛らわせ条件 の間に有意傾向が認められました。よって,①抑制条件のリバウンド効果と,③紛らわせ条件によるリバウンド効果の抑制が示唆されます。

すなわち,何か別のターゲットに集中することで,抑制そのものを防ぐことはできなくても,リバウンド効果は抑制できる可能性があるということです。

新しい何かで”集中的な気晴らし(focused distraction)”

part1のシメとして,新しい何かに没頭することを提案しましたが,その実証の一つになるのがpart2・実験2でしたね。
抑制しようと意識すればするほど思考してしまう…まさに皮肉な理論です。だから別のものを意識しよう!という,哲学的かつ建設的なアンサーがまぶしく光ります。発想の転換はいつでもどこでも大事ですね。集中的な気晴らしというワードセンス,好きです。

さて,この超有名論文,実験1と実験2をほぼ同じ形で展開し,両者間で比較できる形で仕上げています。よく見るケースですが,理論に綻びが多いと効果が激減し,両者の橋渡しに非常に苦労します(※体験談です。総じて勉強か洞察が足りないのですが…)。なので,実験間の論理の展開も丁寧で,比較の効果もちゃんと出ている今回のようなケースは,お手本のようで読んでいて楽しいですね。

ただ,このレベルの研究でも「なぜこの結果が出たかは不明瞭だ」とか「不完全なデータが…」みたいな記述もちょこちょこあるのが,実験心理学の悲哀ですが,他方,奥深さでもあります。だから研究者たちは,自分だけでなく,論文を読んでくれた「誰か」と一つ一つ積み上げて,長い時間をかけて進んでいくのでしょう。

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