悪意は痛い

社会心理

ソフトタッチのはずなのに

以前,屋外の階段を上っていた時,正面から男性が下りてきました。気づいたのが遅かったのもあり,少し手前で道を譲ります。

すれ違うとき,男性が「邪魔」とつぶやきながら追い払うような仕草をしたのですが,その手が私の二の腕に触れました。

それがすごく痛かったのです。じんじんとした強い痛みが数分間続きました。

男性の態度に腹が立ったのは事実ですが,それ以上に不思議でした。叩かれたわけではないので,物理的なダメージはゼロです。それなのに精神的な痛みではなく,身体的な痛みがしっかりと感じられたわけですから。

病は気からと言いますが,痛みも気からくるのでしょうか
今回ご紹介するのは,そんな興味深い現象を扱った研究です。

結構ちゃんと痛くて,しばらく逆の手でさすったりしていました笑

論文紹介

Gray, K., & Wegner, D. M. (2008). The sting of intentional pain. Psychological Science, 19(12), 1260–1262.

問題の所在

プラシボ効果(薬効がないのに症状が改善する)やノシボ効果(本来ないはずの副作用が生じる)のように,私たちの身体感覚は,単純な物理的な作用だけでは説明できない部分があります。

また,身体的な痛みを感じた時と社会的な痛み(ex.仲間外れ)を感じた時に,脳の同じ部位が反応するという研究もあります。

そうであるならば,もし同じダメージを受けても,それが私を痛めつける意図でなされたものか,そうでないかによって,感じる痛みは変わってくるかもしれません。

手続き

実験参加者は43人です。
参加者は2人ペアで実験を行うと言われます。ペアとは一度顔を合わせますが,その後別々の部屋に一人で入ります。

部屋にあるPCのスクリーンには2つの課題が表示されていて,ペアが選んだ課題を自分が行うことになります。

  • 電気ショックの痛さを評価する課題
  • 音の高さを当てる課題

結果として電気ショックの課題をやることになるのですが,条件によってペアが意図的にそれを選んだかを操作します。

【意図的条件】
→ペアは電気ショック課題を選んだ。

【非意図的条件】
→ペアは音の高さ課題を選んだ。しかし,スイッチと課題が実験者によって反対に設定されていたため,電気ショック課題をやることになった。

電気ショックは5試行行われ,参加者は毎回痛みの程度を7件法で評価しました。

結果・考察

  • 感じた痛みは,意図的条件 > 非意図的条件で有意に高かった。
  • 非意図的条件でのみ,回数を重ねると痛みは有意に低減した。

→意図的に電気ショックを与えられたと思うと,感じる痛みが大きくなるようです。
しかも,その痛みは繰り返しても慣れません。

刺激と意味の合わせ技

同じ物理的刺激を受けても,それが持つ社会的意味によって,その感じられ方は大きく変わり得るようです。

よくお笑い芸人がツッコミで叩くのを見ていて,「あんな強く叩いて大丈夫なのか」と思うことがありますが,本人はそれが悪意によるものではないと知っているので,そこまで痛くはないのかもしれません。

相方との仲が悪くなったら,痛く感じたりするのでしょうか‥?

意図的条件で電気ショックを繰り返しても痛みが軽減されなかったというのは,興味深いところです。ただの物理的な刺激には慣れるのに,悪意が加わると慣れないというのは何故でしょう。我々は悪意に接したとき,毎回新鮮な気持ちで受け止めるように出来ているのでしょうか。

こういった差が進化的な適応上有利であったのか,それとも脳の発達の都合でたまたまそうなったのかはわかりません。

いずれにせよ,私があの階段で感じた痛みは,簡単に説明できるものではなさそうです。

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