考えちゃダメだ考えちゃダメだ…シロクマのリバウンド効果 part1

社会心理

「考えないようにしよう」

嫌なことがあったり,我慢しなければいけないことがあったりするとき,こう考えることも多いですよね。好きな人のことだったり,ダイエットのために我慢しなければいけないお菓子だったり,明日の仕事のことだったり…。しかし,考えないようにと意識すればするほど,結局頭に浮かんでしまって離れず苦しむ,という経験もまた同じくらい多いのではないでしょうか。

考えないようにしているのに,私の意志が弱いのか…あるいは人類の欠陥なのでは?と諦めや怒りに似た気持ちも沸きますが,この現象にもある理由が考えられます。

それを検討したのが,ドストエフスキーが兄弟と行っていた「白熊ゲーム」に着想を得たと思われる,1987年の実験です。人間が行う「思考の抑制」には,ある種の限界があることが示唆されます。私たちが憂鬱になるのも,ある程度致し方ないことなのかもしれません。

白熊ゲームとは,『部屋の隅に立って、白熊のことを考えないようにする』という遊びのようです。娯楽としてはかなり高度で,自分が親だったらかなり心配になるタイプのやつだなと思いますね

論文紹介

Wegner, Daniel M.,Schneider, David J.,Carter, Samuel R.,White, Teri L. (1987). Paradoxical Effects of Thought Suppression. Journal of Personality and Social Psychology, Vol 53(1), 5-13.

問題の所在

ある事柄に関する思考を抑制しようとすると,かえって思いつきやすくなってしまう,という逆説的な現象が生じる傾向があります。それについて,2つの実験を経てより詳細な実験調査を行っています。(本記事では実験1を紹介します)

手続き

大学生34名(男性14名,女性20名)を,

  1. 初期抑制条件(initial suppression condition)
  2. 初期表現条件 (initial expression condition)

のどちらかに割り振りました。

参加者が行うのは,「5分間,思い浮かんだことを言語化してテープレコーダーに吹き込む」ことと,「『白熊』が思い浮かんだり,『白熊』と言ってしまったりしたら,ベルを鳴らす」ことです。
抑制フェーズの前には「白熊のことを考えないように」,表現フェーズの前には「白熊のことを考えるように」という教示を受けていました。

結果・考察

どちらの条件でも,抑制フェーズでの参加者は,1分間に2回以上は白熊について考えていました。「完全な抑制」は困難なことが示されています。

これがいわゆる『シロクマ効果』ですね!

ここからは,少し発展した議論です。
表現フェーズのベルの回数を比較すると,②表現条件よりも①抑制条件の方が,ベルの回数が有意に多く,時間経過につれてベルの回数が増加する傾向にありました。このことから,抑制することによってかえって思考してしまう,という「リバウンド効果」が示されます。

さらに,抑制フェーズでの参加者は,文の終わりや沈黙の際にベルを鳴らす(白熊のことを考える)傾向が強かったことから,別の発話を続けている際は思考を避けることができても,それを続けるのは難しいことも示唆されます。

※この実験1について追跡調査を行った結果,ベルを鳴らすという実験設定や練習フェーズの有無による結果の差が生じる可能性も示されたため,考察には限界もありますが…実験2と合わせて読むとより理解が深まります!

考えちゃダメだ考えちゃダメだ…シロクマのリバウンド効果part2
抑え込むとより強くなる 前回紹介した,ある事柄に関する思考を抑制しようとすると,かえって思いつきや...

「我慢できるよね」「できません!」

恋愛やビジネスの文脈でもよく用いられる「シロクマ効果」の実験でした。心理学にまったく詳しくなくとも,この効果は知ってる!という人も多いかと思います。(心理学の文脈ではないですが,「カリギュラ効果」にも近いでしょうか)

この概念については,心理的リアクタンス(決定の自由を奪われると,それに反発した行動を取ってしまう現象)の理論から考えることもできるかな?と思っていたのですが,考察で見事に論破されて感動しました。今回の実験では,抑制も表現も「何かを考える/考えない」ことを指示されており,どちらのフェーズでも自由は奪われている上に結果に差が生じているので説明しきれない,ということですね。

我慢も無理なら,どうやって思考を抑制したらいいんだよ?という問いについては,「まったく別のことに没頭しましょう」となるでしょうか…。抑制しなければ,という思考そのものが促進になってしまうという厄介なシステムなので,抑制しようという考えすら頭に浮かばないような形を取るのが最善手かもしれません。ダイエットなどの生活に密着したことだと難しいですが,恋愛などであれば全く新しい趣味を始める,という隙を作らない行動が功を奏すかも。そこでまた運命的な出会いをしてしまったら…「考えない」ようにしましょうか。

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