笑いのツボが同じヤツは仲間 ~ジョークと協力行動~

社会心理

笑いどころが似ている人がいい

以前,友人が恋人に求める条件として「自分の話で笑ってくれる人がいい」と言っていました。それまで付き合っていた彼女とは,どうもその点がうまくいっていなかったようです。

彼は真面目なタイプではありますが,壊滅的に面白くないというわけではありません。私にとっては,愉快な飲み友達です。話をよく聞いたところ,面白いと感じるものがずれているのが原因とのことでした。

よく考えてみると,これは努力で埋めるのが結構難しいような気がします。日常会話における冗談・ジョークは,その場ですぐに反応することが求められます。瞬時に相手の意図をくみとり,その上でリアクションを示さなければならないのです。

例えば,先ほどの友人と彼女に以下の会話があったとします。

彼女「ねえ,頼みがあるんだけどいいかな」
友人「どうしたの?」
彼女「ちょっとこの課題手伝ってほしいんだ。量が多くて‥」
友人「なるほどね,確かにそれは一人じゃ無理だ‥‥だが断る
彼女「え,ひどい。そんな人だとは思わなかった。もういい!」
友人「いや待って。今のは冗談で‥」

友人は冗談のつもりでも,彼女にそれが届いていません。それはなぜか。彼女が『ジョジョの奇妙な冒険』を知らないからです。逆に,ジョジョを知っている人であれば,笑うかはさておき,どこがどういう冗談なのかはすぐわかります。

このように,冗談が通じるということは,相手が自分と共有知識をもっているということが前提となっています。

そして,そのことが我々が助け合いの関係を築けるかにとって結構重要かもしれない,というのが今回ご紹介する研究です。

 

論文紹介


Curry, O. S., & Dunbar, R. I. (2013). Sharing a joke: The effects of a similar sense of humor on affiliation and altruism. Evolution and Human Behavior, 34(2), 125-129.

問題の所在

複数のメンバーが協力して何かをするには,いつ・どこで・何をするかなど,様々なことを調整しなければなりません。

逆に,その調整がうまくいかないと,協力関係は簡単に崩壊してしまいます。

ゲーム理論で有名な「囚人のジレンマ」は,その最たる例です!

この問題を解決するために,ヒトが持っている手段の一つが共有された文化(規範・慣習・社会構造)です。

たとえば,日本人同士で仕事をするのと,多国籍のチームで仕事をするのでは,前者の方が調整が楽でしょう。効率だけを考えるならば,日本人だけで仕事をすることを選ぶはずです。

しかし,日本人の中でさらに自分と似た文化的背景をもつ人を見つけるには,どうすればいいでしょうか。頭の中はのぞけませんから,目に見える行動からヒントを探すしかありません。

そのヒントの一つとして,我々はジョークへの反応を用いているというのがこの研究の仮説です。

 

手続き

参加者は,調査サービスで集められた成人436名。
実験はオンラインで行われました。

まず,刺激文として18のジョークと,18の非ジョーク(小説の最初の文)を読んでもらいます。
そして,ジョークについては面白いかどうか非ジョークについては好きかどうかを評価します。

刺激文はこちらにあるような感じのものみたいです。
ジョーク
https://bit.ly/36xugLg

非ジョーク(小説の最初の文)
https://bit.ly/3r4MFc3

 

2週間後,同性の他者1人(パートナー)が同じジョーク・非ジョークにどう答えたのか教えられますが,このとき参加者は4つの条件に分かれます。

  • 18問中2問で,自分と同じような回答
  • 18問中6問で,自分と同じような回答
  • 18問中12問で,自分と同じような回答
  • 18問中16問で,自分と同じような回答

従って実験デザインは,文章タイプ(ジョーク・非ジョーク)×評価の類似度(2,6,12,18問)の8条件となります。

この状態で,以下の質問紙に回答してもらいます。

●協力できそうか
「このパートナーとうまく協力できそうですか?」という趣旨の質問紙(7件法)に回答する。

●相手のために何かするか(利他性)
ランダムで賞金があたるくじを引きます。
「もしそれに当選したら,いくらパートナーに分けてあげるかを回答します。

 

結果・考察

●協力できそうか
・評価の類似度が高いと,パートナーと協力できるという回答が増えていた。
・この傾向は,ジョーク・非ジョーク両方に見られた。

●相手のために何かするか(利他性)
・ジョークを読ませたときのみ,評価の類似度はパートナーに対して賞金を分配する割合が増えた。
・非ジョークを読ませたときは,そのような関係は見られなかった。

ただし,文章タイプ×評価の類似度の交互作用は有意ではないようです(p=.11)。

ジョークでも非ジョークでも,評価が似ている相手との協力行動を促す効果があるようです。
ただし,その効果はジョークの方が大きいと推察されます。

hard-to-fake signal

我々はジョークを通して,相手が自分との共有知識をもっているかを確認し,協力するかを決めているかもしれないという研究でした。ただ,結論を認めるにはもっとデータの蓄積が欲しい感じはします。

さて,この実験の結果が正しいとすると,相手との良好な関係を築くには「同じものを面白いと感じる」ことを示すのが大事ということになります。もし,自分の冗談で相手を笑わせられなくても,同じものを見て一緒に笑えるようであればいいのかもしれません。

この研究をもっと早く知っていたら,冒頭で登場した友人にそんなアドバイスもできたかもしれませんね。

ただ,それを試してもうまくいかなければ,いよいよ望み薄の可能性があります。

ジョークへの反応が協力行動のヒントになるためには,それがhard-to-fake signal(ごまかすのが難しい信号)であることが前提となります。つまり,嘘がつきにくいということです。

自然な作り笑いを浮かべ,わからなくても相槌を繰り返し,内容に即した受け答えをテンポよくできるならば,ごまかすのも可能かもしれません。しかし,そこまで出来るならもはやある程度共有知識があるのではという感じもしてきます。

そう考えると,やはりジョークへの反応というのは良いhard-to-fake signalなのかもしれません。

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