書くだけで楽になる? ~筆記での自己開示~

ウェルビーイング

悩みを人に打ち明けられない?

愚痴を聞いてくれるアプリを試してみました。

ストレス解消・癒やしのアプリ「聞いてよ!クマさん」公式サイト
ストレス解消・癒やしのアプリ「聞いてよ!クマさん」の公式サイトです。森のクマさんが悩みを聞いて、森の動物たちがスッキリ解消してくれる無料のiPhoneアプリ。最新ニュースなど様々な情報を掲載していきます。

くまに悩みなどを書いて渡すと,森の動物たちがつついたり埋めたり燃やしたりして,すっきりさせてくれる仕組みです。私は破り捨てるのがお気に入りです。
くまに表情がないのでより一層ウケます。過去ログの機能もあり,見返すのもまた面白いです。

誰かに悩みを話すとなると,相手への負担が気になってなかなか言えないこともありますが,架空のくまさん相手なら気兼ねなく愚痴を言えます。

マイナスなことは考えない方がいいという風潮もありますが,ネガティブな経験や感情に向き合い,開示した方が身体的にも精神的にもよいという研究結果が多く積み重ねられています。

「そういうのってカウンセラー相手だからいいんじゃないの?」という疑問も出てくるかと思いますが,意外や意外,書くだけでもOKのようです。筆記に焦点を当てた研究のひとつを紹介します。

論文紹介

Pennebaker, J. W., & Beall, S.(1986). Confronting a traumatic event: Toward an understanding of inhibition and disease. Journal of Abnormal Psychology, 95, 274‒281.

問題の所在

心的外傷(トラウマ)体験について他者と話すことで,精神的にも身体的にもよい効果が得られることがわかっています。素朴な経験則としてもよくあることです。

しかし,そのような体験の性質上,誰かに直接話すことが難しい場合も多いでしょう。

そこで,他者を介さずに「筆記するだけ」でも同じような効果が得られるのかを検討します。

また,トラウマ体験について,どのような内容を書けば最もよい効果が得られるかという点も考えます。

手続き

参加者は46名の大学生で,トラウマ的な体験について書く3条件統制条件に分けられます。

  1. 統制条件…実験室についてなど,トラウマ感情が関係ないものについて筆記
  2. 事実筆記条件…自分のトラウマ体験の出来事そのものだけを客観的に筆記
  3. 感情筆記条件…自分のトラウマ体験時の感情についてのみ筆記
  4. 組み合わせ筆記条件…自分のトラウマ体験の出来事とその時の感情,両方について筆記

筆記された“トラウマ体験”は,主に家族やペットの死・近しい人とのケンカ・いじめ・失恋でした。多かったテーマは,男性はでペットの死,女性はで失恋だったようです

筆記後,同じ質問紙と脈拍,血圧の測定をします。
また,「筆記の内容がどの程度個人的なものだったか」「どの程度感情を表出したか」への回答を求めました。

そして最終セッションから4ヶ月後に,参加者に同じ質問紙を郵送して回答を求めました。
加えて,「実験に対する印象(自分にどの程度影響を与えたか,4ヶ月の間に実験について考えることはあったか,など)」,4ヶ月の間に参加者が病院やカウンセリングに行った数を調査しました。

結果・考察

統制条件&事実筆記条件 と 感情筆記条件&組み合わせ条件 で大きな差が生じました。
主な比較だけを表にまとめます。

結果,トラウマ体験にまつわる感情について筆記を行うと
短期的にはストレスが高まり感情もネガティブになりますが,
長期的に見ると,主に精神的な健康状態が改善されることが示されました。

 

 

また,統制条件以外のトラウマ筆記3条件では,実験がメンタルヘルスに与える有用性に関しての主観的な評価は概ね4以上の高評価(※7件法)でした。

自由記述でも好意的な記述が多かったようです。
(「人に話さずとも,深く向き合うことで解消された」など)
※なお,書く内容についての男女差はあれど,その他の結果に有意差はありませんでした。

筆者も論文中でコメントしているのですが,フォローアップの測定に限界があり,結果として受容するには不十分な部分も多いです。

自分と向き合う勇気

一人で書くだけでも気分は楽になるよ,という希望のある内容でした。

特に面白いのが,きちんと感情面にも向き合わないと効果があまりみられないという点です。

自分がどう思ったのか,それはなぜだったのか…辛い体験だと向き合うのもしんどいですし,楽しいことでもして忘れよう!と思いがちですが,傷を見つめて手をつっこまないと治るものも治らないのかもしれません。難しいときは,くまに燃やしてもらいましょう。

こういう,基礎と臨床の間のような検証は個人的に好きです。ただ,分野での違いも大きいので,落としどころを見つけるのが大変なんだろうなあ…と思います。この論文だと,手続きから考察まで限界点も多いですが,とても丁寧に両者のいいところを組み合わせていて,読んでいて尊敬の念を抱きました。

別の研究でも,「自己理解を促進することが健康に良い影響を与える」なんていう結果が出たりしているようです。自分がどう感じたか,どう考えているかを把握しようとするのは健康面でも大事なんですね。

一方で,ネガティブな記憶の反すうは心身ともに良くないという当然といえば当然の知見も多く積まれています。くまさんに破り捨ててもらった過去は見ない方がよさそうです。

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