かわいいは世界を救う?
最近,「ちいかわ」にハマっています。ちいさくてかわいい,の略です。名前がすごい。
見ているとなんとも癒され,ついぼーっと眺めてしまいます。
コラボカフェや展示会,グッズも急激に増えてきて,ちいかわが日本を支配する日も近いのではと思えてきます。
今やが世界共通の日本語となった”かわいい”は,世界の覇権を握っているといっても過言ではありません。
なぜ,人はこんなにもかわいいものが好きなのでしょうか。
最古の(?)かわいい研究は,1940年代に遡ります。
心理学者のLorenzによって ,ベビースキーマの概念が提唱されました。
大きな頭に目,短くて太めの四肢など,人間や動物の赤ちゃんに共通する特徴を持つものを見ると”かわいい”と感じ,ポジティブな気持ちになったり,保護したくなったりする,というものです。
個人差はあると思いますが,日常的に経験する現象ですね。
このように,かわいいものに癒されるのは,先行研究でも,我々の素朴な体験からも明らかです。
では,かわいいものが与えてくれるのは癒しだけなのでしょうか。もっとポジティブな効果があるから,我々はかわいさに熱狂しているのかもしれません。
今回は,そんな“かわいい”の可能性の一端を探った研究をご紹介します。
論文紹介
Nittono H, Fukushima M, Yano A, Moriya H (2012) The Power of Kawaii: Viewing Cute Images Promotes a Careful Behavior and Narrows Attentional Focus. PLoS ONE 7(9): e46362.
問題の所在
かわいさは,古くからベビースキーマなどの概念上で議論されてきました。
“かわいい”幼児や動物の赤ちゃんを見ると,人は感情的にポジティブな状態になり,対象に接近するなどの行動を取ります。
しかし,かわいいものを見た後に,当人の行動にどのような影響を与えるのかは検討されていません。
そこで,かわいい画像を見た後に課題を遂行し,成績が上がるかどうかを実験します。
今回の実験では,ベビースキーマにしたがって”かわいい”を定義し,子犬の画像を使っています。体に比べて頭が大きい,額が高く出ている,目が大きい,といった点が特徴ですね。こんな感じの…
あらかわいい。犬の種類の違いって柴犬くらいしかわからないんですが,この子は…?
なんと。かわいいがわかればOKですが,この子はヨークシャーテリアです!ちいさくてかわいい。
手続き
参加者は大学生48名(男女各24名)で,
- かわいい動物条件:”かわいい”動物の画像を見て課題を行う
- 大人動物条件:”かわいい”特徴を持たない動物の画像を見て課題を行う
のどちらかに振り分けられました。
画像を見る前後で,課題の得点と遂行時間に差があるかどうかを比較します。
課題は,「手術ゲーム」です。人体が描かれたボードに,14個のパーツが配置されています。参加者はピンセットで,穴の縁に触れないようにパーツを取り除きます。縁に触れたり,落としたりすると失敗です。
また,画像を見て,「かわいさ(cute)」「幼さ(infantile)」「楽しさ(pleasant)」「わくわく(exciting)」の4項目を6件法で評定しています。
結果・考察
まず,かわいい動物条件のみ,画像を見た後の遂行成績が高まりました。
遂行時間も増加したことから,慎重に正確に作業を行っていることがわかります。
そして,画像の評定値は
かわいさ・幼さ:かわいい動物条件>大人動物条件
楽しさ・わくわく:かわいい動物条件≒大人動物条件
でした。さらに,かわいさ・幼さは,遂行成績との正の相関が認められました。
したがって,かわいいものを見た後は,丁寧にかつ集中して作業を行う といえます。
なぜ,かわいいものを見ると,行動に影響があるのでしょうか。
実は,その他の先行研究からも,ポジティブな情動が様々な情報処理に影響することがわかっています。
実験3では,かわいい動物を見ると,注意を向ける幅が狭くなり課題成績も高くなることが示されました。実験1の結果と合わせると,かわいい画像を見たときの情動には,注意を研ぎ澄ますような影響があると考えられます。
実験2では,食べ物の画像を表示する条件を追加して実験を行っていますが,そこでもかわいい動物条件でのみ同様の差が出ました。
なるほど。単なる快感情ではなく,”かわいさ”がポイントですね
不思議ですよね。行動レベルでは,性差がなかったのも面白いです
かわいいは仕事も救う
かわいいものを見ると,気持ちが癒されるだけでなく,その後の作業遂行にもいい影響を与える可能性が見出されました。
かわいいパワー,すごいです。論文のタイトルに偽りなしですね。
この実験,さらに面白いのは,画像の評定値は女性の方が高い傾向があったものの,行動レベルでは性差が認められなかった,という点です。(女性の方が評定が高かった,というのも,社会的望ましさに引っ張られている可能性もありますが…)
社会的に「女性のもの」とされがちな”かわいい”も,効果は男女平等なようです。嬉しいですね。
我々,社会で働いているとミスをとがめられることも多いです。
そんな時は,思い思いのかわいい画像を見てから,仕事に取り組みましょう。
いい気分でミスも減る,一石二鳥の”かわいい”が味方になってくれます。
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